風薫る日、知人の心づくしの新茶が送られてきました。 あくる日、出かける前のひととき、家族で親切の香りを楽しもうと昔から使っていた大事な湯飲み茶碗を取り出しました。白磁のこの茶碗はいつもしまってあって新緑の季節のみ、取り出して使うならわしになっていました。 お茶の間に集まった家族の前で長男の嫁が急須にお茶を入れて持ち上げた、と同時におぜんの角にぶつけて( 1 )。 2 一瞬シーンとしてしまいました 。 つかの間。隣に座っていた長女が壊れたそれを拾い上げて「アラ、ラララ」と言ったのです。 価値の良し悪しはあまりわからないけれど長年、わが家に伝わる思い出の品( 3 )、がっかりのとこでしたが、「アラ、ラララ」の言葉で助けられました。 あの時、「アラ!」と言っていたら、家中暗くなってしまったんじゃないかと思いました。 返事の「ハイ」は一回、と常日ごろ注意していたのですが、アラにはラララを加えると時と場所によっては救いになると知りました。 せがれが瞬間接着剤があるから、と落ちた急須の先を上手に付けたら、元の形にもどりました。しばらくして、皆の手に新茶のつがれた湯飲みが渡りました。 「お茶の香り、いいわねえ」 「家族でこうやってお茶を飲むとほっとするわねえ」 嫁も娘も何ごともなかった様に畳にきちんと座って緑の香りを楽しんでいました。 大事なものが壊れたときって、とってもいやな気持ちがするのに、4 なんとなくうれしい気持ち になりました。 家族も心あれば、ほんの少しの言葉の付け足し方でうまくゆくものなんですね。 (香葉子:ことばとくらす<朝日新聞>より)