かつて ( 注 1) 、私はこんな実験を行なったことがある。まず、実験の協力者に 20 分間、一桁の数字をランダム ( 注 2) に書き続けてもらう ( つまらない作業 ) か、絵のなかにある間違いを探してもらう ( おもしろい作業)かのいずれかの作業をしてもらう。 この作業が終わったあと、おもしろい作業を経験した協力者には、次の順番を待っている人に「つまらない作業だった」と説明してもらった。同じように、つまらない作業を経験した協力者には「おもしろい作業だった」と説明してもらった。( 1 )、自分が実際に経験したこととは正反対 ( 注 3) の、いわばウソの説明をしてくれるように頼んだのである。 その結果、「つまらない作業をおもしろい」と説明するグループの人たちは、「おもしろい作業をつまらない」と説明するグループやコントロール • グループ(自分が経験した通りに説明する条件)の人たちより、より遠くの距離から説明することがわかった。また、実験条件にかかわらず、 2 相手 の方から接近する場合より、前方から接近する場合の方が距離が遠くなった。 さらに、相手の前方から説明する場面では、「おもしろい作業をつまらない」と伝える場合 (108 センチメートル ) より、「つまらない作業をおもしろい J と伝える場合( 173 センチノートル)のほうが距離が遠かった。さらに、「つまらない作業をおもしろい」と説明する場面では、方 (107 センチメートル ) から説明する場合より、前方( 173 センチメートル)から説明する場合のほうが距離が遠かった。 要するに、ウソをつかなければならない場面では、とくに ( 注 4) 前方からの場合、ことに相手に接近しにくくなることがわかる。まだ、 3 同じウソでも 、 4 相手を傷つける恐れ少ないウソ (本当はおもしろいのにつまらないと言う)をつくときには相手に接近しやすいといえる。 5 いつもと違ってうしろから話しかけてきた とか、いつもより遠くの前方(この実験からは 70 センチメートル前 ( 注 5) になる)から話しかけてきた。こんな場面では、相手が特別な気持ちを持っていると考えられる。ウソをつこうとしているのか、あるいは、何か言い出しにくいことを言おうとしているのだと推測 ( 注 6) してよさそうである。 (注 1 )かつて:前に、以前 (注 2 )ランダムに:規則的ではなくて、適当に (注 3 )正反対:全く反対であること (注 4 )ことに:普通よりもっと、格別 (注 5 ) 70 センチメートル前: 70 センチメートルぐらい (注 6 )推測する:たぶん~だろうと考える